鉄・鋼の物性値一覧(融点・ヤング率・熱伝導率・熱膨張率・比熱・硬さ)
設計・加工でよく使う鉄と鋼の物性値を、NIST・CRC Handbook・鋼構造設計規準・JIS を出典に整理しました。
鉄(純鉄)と鋼(SS400 などの炭素鋼)の融点・ヤング率・熱伝導率・熱膨張率・比熱・硬さなど、設計や加工の計算でよく使う物性値を、出典を明記してまとめました。数値は常温(20〜25℃)の代表値で、合金成分・熱処理・温度によって変わります。
鉄・鋼の主な物性値一覧
| 項目 | 値 | 出典 | 補足 |
|---|---|---|---|
| 密度(比重) | 7.87 g/cm³(純鉄、20℃)/鋼材の質量計算は 7.85 | CRC Handbook/JIS G 3193:2025 表12 | 鋼は炭素・Mn などを含むため純鉄よりわずかに軽い。詳細は比重と密度 |
| 融点 | 1,809 K(約 1,536℃)。文献により 1,538℃ | NIST Chemistry WebBook(固相データの上限温度 1809 K)/CRC Handbook | 鋼は炭素量が増えるほど低下。炭素鋼 約 1,400〜1,500℃、鋳鉄 約 1,150〜1,250℃ |
| 沸点 | 約 2,860℃ | CRC Handbook | — |
| キュリー点(磁気変態点) | 1,042 K(約 769℃) | NIST Chemistry WebBook(固相データの区分温度) | これ以上の温度で強磁性を失う。磁石に付かなくなる温度 |
| 変態点(純鉄) | A3:約 912℃(α→γ)/A4:約 1,394℃(γ→δ) | CRC Handbook・鉄−炭素系状態図 | 焼入れ・焼ならしの加熱温度はこの変態点を基準に決まる(炭素鋼の A1 は 727℃) |
| ヤング率(縦弾性係数)E | 205,000 N/mm²(建築)/200,000 N/mm²(土木) | 日本建築学会「鋼構造設計規準」/道路橋示方書 | 鋼種・強度によらずほぼ一定。SS400 も S45C も同じ値 |
| せん断弾性係数 G | 79,000 N/mm²(建築)/77,000 N/mm²(土木) | 同上 | G = E/{2(1+ν)} |
| ポアソン比 ν | 0.3 | 日本建築学会「鋼構造設計規準」 | — |
| 線膨張係数 α | 1.2×10⁻⁵ /℃(純鉄 約 1.18〜1.2×10⁻⁵) | 日本建築学会「鋼構造設計規準」/道路橋示方書/CRC Handbook | 1m あたり 100℃ で約 1.2mm 伸びる |
| 熱伝導率 | 純鉄 約 80 W/(m·K)/炭素鋼 約 45〜55/SUS304 約 16(常温、参考値) | CRC Handbook(純鉄)。鋼の値は伝熱工学の一般的な資料の代表値 | 合金元素が増えるほど下がる。ステンレスは鉄の約 1/5 |
| 比熱 | 約 0.45 kJ/(kg·K)(25℃) | NIST Chemistry WebBook(Cp 25.1 J/(mol·K) ÷ 55.845 g/mol) | 1kg の鉄を 1℃ 上げるのに約 450 J。温度が上がると比熱も増える |
| 電気抵抗率 | 約 9.7×10⁻⁸ Ω·m(純鉄、20℃) | CRC Handbook | 銅(1.7×10⁻⁸)の約 6 倍。炭素鋼はさらに高い |
| 磁性 | 強磁性(キュリー点以下) | — | オーステナイト系ステンレス(SUS304 など)は常磁性で磁石に付きにくい |
| 硬さ | SS400:JIS に規定なし(引張強さからの換算で HB 約 115〜150 相当・参考) | 硬さ換算表(引張強さ−ブリネル硬さ) | 硬さは熱処理で大きく変わる。鋼種別の規格値は各鋼種ページ参照 |
出典の詳細:NIST Chemistry WebBook(Iron)/CRC Handbook of Chemistry and Physics(元素の物性表)/日本建築学会「鋼構造設計規準」/国土交通省「道路橋示方書」/JIS G 3193:2025(JISC 規格票で原典確認)。純鉄の値は文献により小数点以下が異なります。
融点 ― 鉄は何度で溶けるか
純鉄の融点は 約 1,536〜1,538℃(1,809〜1,811 K)です。NIST の熱力学データでも固体の鉄のデータは 1,809 K を上限にしています。
鋼は炭素を含むぶん融点が下がります。鉄−炭素系の状態図では、炭素が増えるにつれて溶け始める温度が下がり、SS400 や S45C のような炭素鋼ではおおむね 1,400〜1,500℃、炭素 2〜4% の鋳鉄では 1,150〜1,250℃ 程度です。鋳鉄が鋳物に向くのは、この低い融点で溶かしやすいからです。
ガス切断は鉄を溶かしているのではなく、予熱で 900℃ 前後にした鉄を酸素で燃焼(酸化)させて切っています。酸化鉄の融点が鉄より低いので、溶けた酸化鉄が吹き飛ばされて切り口ができます。
ヤング率 ― 強い鋼でも「硬さ(たわみにくさ)」は同じ
ヤング率(縦弾性係数)は、力を加えたときのたわみにくさを表す値で、鋼は 205,000 N/mm²(205 GPa)です(日本建築学会「鋼構造設計規準」。道路橋示方書は 200,000 N/mm²)。
誤解されやすいのですが、ヤング率は鋼種や強度でほとんど変わりません。SS400 も、引張強さが高い SS490・SM490・S45C も、同じ 205,000 N/mm² で計算します。高強度の鋼にしても「壊れにくく」はなりますが「たわみにくく」はなりません。たわみを減らしたいときは、材質ではなく板厚や断面形状(H形鋼など)を変えるのが正解です。
参考:アルミニウムのヤング率は約 70,000 N/mm²(鋼の約 1/3)、ステンレス SUS304 は約 193,000 N/mm²、銅は約 120,000 N/mm² です。
熱膨張 ― 鉄は温度で何mm 伸びるか
線膨張係数は 1.2×10⁻⁵ /℃。伸び(mm)= 長さ(mm) × 1.2×10⁻⁵ × 温度差(℃) で計算できます。
| 長さ | 温度差 10℃ | 温度差 50℃ | 温度差 100℃ | 温度差 500℃ |
|---|---|---|---|---|
| 1 m | 0.12 mm | 0.6 mm | 1.2 mm | 6 mm |
| 3 m | 0.36 mm | 1.8 mm | 3.6 mm | 18 mm |
| 6 m | 0.72 mm | 3.6 mm | 7.2 mm | 36 mm |
| 10 m | 1.2 mm | 6 mm | 12 mm | 60 mm |
ガス切断では切断線のまわりが数百℃に熱せられるため、この熱膨張と冷却時の収縮が切断後の反り・曲がり(熱変形)の原因になります。細長い部品や薄い板ほど影響が大きく、切断順序や冷却の工夫で抑えます。精度が必要な切板はご相談ください。
熱伝導率 ― 鉄板はなぜ熱くなりやすいか
純鉄の熱伝導率は常温で約 80 W/(m·K)、炭素鋼は約 45〜55 W/(m·K) です。銅(約 400)やアルミ(約 240)より低いものの、ステンレス SUS304(約 16)の 3 倍以上あり、熱が全体に広がりやすい材料です。厚い鉄板が調理に使われるのは、この熱伝導と大きな熱容量(比熱 0.45 kJ/(kg·K) × 質量)で、温度ムラが少なく冷めにくいためです。
硬さ ― 規格に「硬さ」がある鋼とない鋼
SS400 のような一般構造用鋼は、JIS G 3101 に硬さの規定がありません(引張強さと降伏点、伸びが規定されています)。引張強さ 400〜510 N/mm² を硬さ換算表にあてはめると、ブリネル硬さ HB でおおむね 115〜150 に相当します(参考値)。
硬さは熱処理で大きく変わります。S45C などの機械構造用炭素鋼は焼入れ・焼戻しで硬さが上がります。鋼種ごとの規格値(化学成分・機械的性質)は各鋼種のページをご覧ください。
よくある質問
- Q. 鉄の融点は何度ですか?
- A. 純鉄の融点は約 1,536〜1,538℃(1,809〜1,811 K)です。鋼(炭素鋼)は炭素を含む分だけ低く、おおむね 1,400〜1,500℃ で溶け始めます。炭素量の多い鋳鉄(C 2〜4%)はさらに低く 1,150〜1,250℃ 程度です。
- Q. 鉄(鋼)のヤング率はいくつですか?
- A. 構造設計では 205,000 N/mm²(205 GPa)を使います(日本建築学会「鋼構造設計規準」)。土木の道路橋示方書では 200,000 N/mm² です。SS400 でも SS490 でも S45C でも、鋼であればヤング率はほぼ同じで、強度が高い鋼種でも変わりません。
- Q. SS400 のヤング率と硬さは?
- A. ヤング率は他の鋼と同じ 205,000 N/mm²(建築)です。硬さは JIS G 3101 に規定がなく、引張強さ 400〜510 N/mm² を硬さ換算表で見るとブリネル硬さ HB おおむね 115〜150 に相当します(参考値)。
- Q. 鉄の熱伝導率はいくつですか?
- A. 純鉄で約 80 W/(m·K)(常温)。炭素鋼はこれより低く約 45〜55 W/(m·K)、ステンレス(SUS304)は約 16 W/(m·K) です。鉄板が熱くなりやすく、ステンレスは熱が伝わりにくいのはこのためです。
- Q. 鉄の熱膨張率はいくつですか?
- A. 線膨張係数は 1.2×10⁻⁵/℃(0.000012/℃)です。長さ 1m の鋼材は温度が 100℃ 上がると約 1.2mm 伸びます。10m の鉄骨なら夏冬の温度差 50℃ で約 6mm 伸び縮みします。
- Q. 焚き火やコンロの火で鉄板は溶けますか?
- A. 溶けません。焚き火の炎は 700〜900℃、ガスコンロでも 1,000℃ 前後で、鉄の融点(約 1,500℃)には届きません。ただし 500℃ を超えると表面に酸化皮膜(スケール)が付き、赤熱した状態で急冷すると反りや割れの原因になります。
- Q. 鉄の比重(密度)はいくつですか?
- A. 純鉄は約 7.87 g/cm³、鋼材の重量計算では JIS G 3193 の基本質量 7.85 を使います。詳しくは「鉄の比重と密度」のページをご覧ください。
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